実践記録 T、おれはかまきり      岐阜サークル 山内貞義

   おれはかまきり
           かまきりりゅうじ
   おう なつだぜ
   おれは げんきだぜ
   あまり ちかよるな
   おれの こころも かまも
   どきどきするほど
   ひかってるぜ
   おう あついぜ
   おれは がんばるぜ
   もえる ひをあびて
   かまを ふりかざす すがた
   わくわくするほど
   きまってるぜ

1 りゅうじくんとの出会い

 3年1組で、40人。2年生までは4クラスであった。転出児童がいて、120人になる。組み分けされた児童名の入った封筒が渡された。その表にりゅうじくんの名が書かれていた。
(ドッジボール)自分でアウトやセーフを判定してしまう。相手の足が出たから、「こっちのボールだ」と、勝手に取ってしまう。外野にいて、送られたボールが取れないと、味方でもけったりなぐったりする。
(休み時間)6年生の子ともけんかをしている。クラスの子も、休み時間のたびに、キックやパンチをされ泣かされている。
(遅刻)いやーな顔をして登校してくる。母親に車で送ってもらっているという。1週間に2〜3回遅刻をする。朝ご飯を食べてこないことも多くある。
(自由帳)給食の後やプリントが終わった後などに、自由帳(無地のノート)に向かって、怪獣や戦士(?)を描いている。この時は、かわいい顔をしている。

2 本が死ぬところ暴力が生まれる

 こんな題名の本がある。ストーリーとして自分の生活を見直せないかぎり、生活が変わっていかないのではないか。そのためには、りゅうじくんを含めクラスの子が、ストーリーを楽しめる子になっていってほしいと思っていた。昨年の2年生は、図書室で本を借りる冊数がかなり少なかったことも、気にしていた。
 10分以内で読み終えわれる本を毎日毎日読んでいった。教室の机を寄せて、集まって床に座らせる。読み聞かせは、30人以下でないと効果的でない。なのに40人を集中させながら読み終えることは、大変なことであった。集中できないのは、女子では、行動的でクラスのもめごとを次々とうれしそうに報せてくれる子であり、2年生の時保健室によく通っていた子である。男子では、授業中よくトイレに行く子であった。(黙って行く子が、学期始めには何人かいた。)
 家から本を教室に持ち込み、読み聞かせた後は、学級文庫として教室の後ろの本箱に入れて、自由に読めるようにした。県立図書館からも借りて、読み聞かせしてきた。
 「こらはのみのぴこ」や「こんなやりかた」(お母さん編と子ども編の2冊で、1セット)は、一人で読むより友だちと声に出して読み合うと楽しい本であり、人気があった。
 ほっておくと、図書室に行かずほとんど本を借りない子もいる。毎日20分休みになると、図書室に行かせる。本を忘れて借りにいけない子には、一言注意をしておいた。これを毎日繰り返した。(このしつこさ)
 借りる量が多くなれば、友だちの借りた本を借りてみるなど、気に入った本の交流が始まる。あの子も読んだんだから、わたしも読んでやるということになる。友だちが借りた本を次に借りる約束をして、図書室に向かう。友だち同士で借り続けられるために、借りる機会が無くなった友だちが少ない子が、怒り出すこともある。
 りゅうじくんも本を読むことが多くなって、学級文庫から本を持ってくる。持ってくれば、必ず読んでいる。本を借りにいくというより、本箱の前でつつき合っている子よりましになってきた。

読み聞かせでやっていること、願っていること

@毎日読み聞かせ
・近くに寄って話を聞くことで、おもしろい・悲しいなどクラスの空気を感じられる。
・続けることで、ストーリーを楽しめる子に。
・子どもの反応から、読み聞かせた本への興味関心の変化をつかむ。

A図書館・学級文庫の活用
・読み聞かせた本を学級文庫に置くことで、じっくり絵が見られる。自分で読んでみようとする。
・友だちの影響を受け、同じ本を読んでみようとする。
・読んでみようとする本の選択の幅を広げる。

B共通の話題がある
・「あの本の○○君みたい」ということで、自分や友だちやクラスが見直せる。
・イメージを共有し、その世界で遊ぶ。(ポケットモンスター)
・ファンタジーの世界をたっぷり楽しませる。(サンタはいるか)
・飛躍・挑戦する気持ちを引き出す。(虫歯予防・プール・運動会・社会見学など、学級活動の時間に)

C親子読書
・塾やおけいこやスイミングやスポーツ少年団に子どもを預け、子育てをしている気になっている。てま・ひまかけて子育てをする楽しみを知ってほしい。
・親の愛を感じる時間、対話が成立する時間を持ってほしい。

D文化活動
・本に関するクイズをしたり、ペープサートをしたりして、自分たちで本の世界で遊べる。

3 体を通して交流(ゲーム)

 「鳥と巣」というゲームがよかった。3人組になり、2人が手をつないで巣になり、1人は鳥になって中に入る。リーダーの合図で、鳥が動いたり、巣が動いたりして、3人組になる。かすかな体の接触が、気持ちを穏やかにしていくようである。相対してやるドッジボールやサッカーでは味わえないものである。
 ナンバーコールや集団ジャンケンも楽しくやった。

U、 てれるぜ

   てれるぜ
           かまきりりゅうじ
    もちろん おれは
    のはらの たいしょうだぜ
    そうとも おれは
    くさむらの えいゆうだぜ
    しかしな
    おれだって
    あまったれたいときも
    あるんだぜ
    そんなときはなあ
    おんぶしてほしそうな
    かっこになっちまってなあ
    ・・・・・・・・
    てれるぜ

1 「少年少女冒険隊」と「のはらうた」

1、歩き続けてゆこう 森も野原もこえて
  きつね むささび あひる ついておいでよ
  流れる川が 道を消しても
  ともだちの手をはなさずに さあ
  暗やみの中 おそれるに 今 進め
  ※ 七つの不思議を
  知りたい 聞きたい 見たいな
  ぼくらは わんぱく 少年少女冒険隊
2、見つめ続けていこう 遠く はなれていても
  火星 水星 土星 アンドロメダを
  流れる星に またがりながら
  ともだちの手をはなさずに さあ
  暗やみの中 おそれるに 今 進め
  ※
3、さがし続けてゆこう 明日を変えてく力
  うたと 涙と 夢と そしてやさしさ
  ながれる歴史(とき)に もどされる日も
  ともだちの手をはなさずに さあ
  暗やみの中 おそれるに 今 進め
  ※ こどものうたごえ ベスト・コレクション 「歌えバンバン」    音楽センター

 前から中学年を受け持ったら、この歌を思いっきり子どもたちと歌いたいと思っていた。しっかりのってくれた。クラスのリーダー的な子が元気に歌い、それにつられるように全体が歌うようになった。勝手に振り付けをし踊りだす子まで出てきた。
 国語の詩の学習が始まった頃、もっと詩で楽しめないかなと思って、学校との行き帰りにCDで「のはらうた」を聞いていた。これは子どもが楽しめるのかどうかずっと考えていた。
 詩の学習が終わってしばらくして、同じ学年の先生が、「これ使って」と言って差し出した。それは、「のはらうた T」の詩が7編載ったプリントであった。その先生は、「これ大好きなんやて」とうれしそうに言っていた。これでやってみようと決める。さっそく車からCDを取ってくる。
 「でたりひっこんだり」「ひるねのひ」「おがわのマーチ」「はなのみち」「おと」「おれはかまきり」「あいさつ」の詩をそれぞれ3〜4回繰り返し、口ずさめるくらい聞かせた。もちろん「おれはかまきり」が一番うけた。楽しい曲に合わせて、詩が歌えたことに感動した。「うけた!うけた!やった!やった!」という気持ちだった。こんなのを子どもは待っていたんだ。その後、帰りの支度をする時、この曲をかける。子どもたちは、口ずさみながら行動をする。

詩を楽しむ

 雲の上で仙人はかすみを食べて生きているそうです。地上のわたしたちは、お肉や野菜やお魚などを食べ物にしています。ところでわたしは、そのほかに「ことば」を食べることがあります。おいしそうなことばを目の前にすると、つい食べてしまいたくなるのです。
 ことに詩集の中にならんでいるおいしいことばを見ていると、目で味わっているだけでは足りなくて、いつのまにか口が動いてしまうのです。そうしてしゃべったり、あそんでいるうちに、すっかりおぼえてしまった詩がいっぱいあります。
 さて、みんさんにも、ことばをおいしく食べてもらいたくて、この本をつくりました。
※「しゃべる詩 あそぶ詩 きこえる詩」はせみつこ編(冨山房)のあとがきの一部を引用

2 けん玉
 5月まで、教室に置いてあったこまで休み時間を楽しんでいた。取り合いもあったが、班ごとに優先順位を決めてからはもめないでやれるようになった。(もちろんりゅうじくんがやりたくて勝手に使うことでもめていた)
 6月6日の日曜参観日に、これからけん玉をやっていきますということで、技の紹介と練習をした。
 この日から、休み時間はこまに代わりけん玉が大はやり。2週間もすると、「もしかめ」が相当できるようになる。放課後、音楽に合わせて「もしかめ」で遊ぶ。10人近く残って遊ぶ。他のクラスの子が、教室をのぞきながら、一緒に帰る子を待っている。「月曜日と木曜日と金曜日の放課後にできるね」と次回を楽しみにしている。前に振ってしか大皿ができなかった大島さんも普通に大皿ができるようになり、「もしかめ」をやっていた。
 御節介で、クラスのもめ事をことごとく報告し、自分を主張したがっていたるいさんが、2週間ちょっとで、「もしかめ」を500回やった。
 りゅうじくんも、皆に遅れずやり続けている。時々けん玉で人にいたずらをして、坂井さんらと言い合いをしている場面も見かける。
 けん玉を初めてから、相手を探して遊ぶ機会が増え、「てれるぜ!」という場面も増えてきた。

けん玉でやっていること、願っていること

@夢中になって、高いレベルに向かって個で努力できる。友だち同士で遊ながらよい競い合いができる。
A技を獲得するのに長い時間がかかる。技を獲得した喜びは大きい。自分に自信が持てる。
B認定試験で、どの子も見てやれる。声をかけれる。励ませる。
Cけん玉で遊んでいると教え合い、自分たちのルールをつくる。ルールに縛られたスポーツと違う。
D集団遊びに発展できる。

V、やるぞ

     やるぞ
        
かまきりりゅうじ  ねぼうばかり していられない
 「けいかくてき」に ならなくちゃ
 そこでまず ぼくは
 「けいかくひょう」をつくる
 けいかくを たてた
 やるぞ!

「のはらうた V」  くどうなおこと  のはらみんな      童話館

 1学期がたったが、りゅうじくんは、遅刻は続くし、「どきどきする」ような行動をとることもあるが、「てれるぜ」という行動も多くなってきた。まだまだ「やるぜ」にはならないが、たっぷり本を読む子やけん玉を続ける子にリードされて、仲間と行動をするためのルールを少しずつ学んできているのではないだろうか。顔つきがちょっぴり穏やかになってきている。
 プールで、りゅうじくんを抱きかかえ放り投げることを何度もした。苦しくなるまで水に沈めた。次の日、「先生、早く入っておいでよ」と、催促してくる。
 7月1日、りゅうじくんがダウン。4時間目に「えらい」と言う。保健室で休ませる。給食の時間に戻ってくる。食べ始めると、どんどん顔色が明るくなり、元気を取り戻す。このように電池が切れたようになり、食べたら充電したように即元に戻る子を見たことがない。5時間目は、授業参観の水泳だった。元気に泳ぎ回っていた。

W、父母とのつながり

1、食習慣

 食習慣でのしつけの問題でずっとこだわっていることがある。それが学習姿勢とかなりつながっているのではないかと思っている。一緒に考えてみてください。
@箸をうまく使う      @鉛筆がうまく使える
A姿勢よく食べる      A姿勢よく学習できる
B食物の好き嫌いをしない  B友だちの好き嫌いをしない
              B意欲的に学習に向かえる
C時間までに食べ終えられる C人に急かされることなくやれる
              C計画的に仕事ができる
 これをどう家庭と連絡をとりながらやっていくかが、大きな課題である。

2、親とのすれ違い
 自分に都合のよい嘘をつく子が増えてきている。そのために、親からの不満がいろんなかたちで学校にくる。(連絡帳で・校長への電話で・ひどい場合は教育委員会に)
 親の前でいい子でないと「金」と「愛情」がもらえないよう、追い込まれているため嘘をつかなくてはならないのである。それは、わが子はいい子であると信じて子育てをしている親の願いが背景にあるからである。
 連絡帳でやりあったら、深みにはまる。じかに話し合ったほうがよい。実は子育てに悩んでいるのだから。よい意味では、親の学校参加につなげられる。(ゆがんだ学習内容・規則)

3、男子の幼さ
 鉄棒をやっても、けん玉をやっても、遅れてついてくる子が男子に固まっている。女子のレベルはそのままなのだが、男子のある部分の子の遅れが、目立ってしまう。今考えられることは、ゲームとカードにより、活発に行動しなくなった結果ではないか。父母と一緒に考えていかなくてはならない課題でもある。

X、学年で

1 読み聞かせ
 職員室には、常に10冊近くの本を置くようにしている。自分の本や図書館で借りた本を。自由に借りて読み聞かせをしてもらう。そうして読み聞かせをした結果を教えてもらう。同じ本なのにクラスによって反応が違うのもおもしろい。とても参考になる。職員室で共通の話題で話ができるのが学年づくりではないか。

2 けん玉
 
総合的な学習の時間で、「昔からの遊びに挑戦しよう」という単元を設定した。毎年3年生は、親子ふれあい学習で竹馬を作り、乗れるようになることをしてきた。竹馬にしてもけん玉にしても、時間をかけて技を獲得する。何でも挑戦してみたい中学年にとって大切なことではないか。
 運動会の団体演技にも取り入れていくことになっている。

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